心 の 通 い 路

(奉仕こそわがつとめG)

 

 奉仕の重大な要素は、利己心によって作り出された溝に橋をかけることであります。

競争者の場合には、それは友情というものの働く余地を大幅に与えることを意味します。

顧客関係においては、真実の心の交流は、買手が実際に欲求するものに対して販売人が関心を持つということによって確立されるのです。

 

 しかしながら、権力というものが対従業員関係において作るへだたりを取り除く必要については、さほど明らかではありません。

あの手この手でご機嫌を取り結ばれる顧客と、時間も才能も体力もすべて買い取られて権力の支配下に置かれている従業員との間には、知らず知らずのうちに一つの差別ができています。

 

 事業の成功には、従業員も顧客に劣らず肝要であるということも、また同様に真理ではないでしょうか? 

従業員が機敏で、聡明で、かつ協力的であれば、雇主は最大の利益を得るのです。

 

 対顧客関係で得た経験の多くは、従業員から最良の努力を得る上に応用することができます。

第一段階は権力によって生じたへだたりを無くすことであります。

販売人は、自分の第一のつとめは顧客の欲求を研究して、満足すべきサービスがもたらす顧客の利益を、利潤という自分の利益に優先させて考えることであると承知しております。

顧客はこのような扱いに対して良く報いてくれるものでありますが、従業員もまた同様であります。

 

 ある労働組合の委員長は、長い間困難な交渉を続けてきた会社に贈った賛辞の中で、次のようなことを言いました。

「彼らはあたかも我々に機会を与えようとしているかのごとき行動を取っている。我々は常に勝つとは限らないが、しかし、事柄がいかに大きかろうが小さかろうが、彼らは常に耳をかしてくれる。耳をかしてくれる人に対しては好意を持たざるを得ない。

 

 意思がたやすく疎通する道が開けていないということが、しばしば困窮を広くひろげる多くの破壊的な労働争議の発端となっております。耳をかす道が開けていないということは、多くの小事業においては、更にいっそう致命的であります。それは、小事業においては、声なき不満は公然たる反抗よりも更にいっそう能率を破壊低下するからであります。

 

ロータリー活動を生かして雇主の事務室の門戸を開放し、使用人がいつでも入って来て、彼らの苦情を述べることを歓迎するように、できるのではありませんか。

“使用人が不満を抱いて会見を申し込んで来たとき”次の諸点を心得て置くことを提唱しております。

 

ただ、黙って耳を傾けなさい。

使用人が“胸中をさらけ出す”ことができた時に多くの事柄はひとりでに解決するものです。

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------

 ・議論しないこと。

 

 ・説教しないこと。使用人はあなたとの間のへだたりを感じます。説教は意

思の疎通を妨げます。

 

 ・彼の言いたがっていることに注意を払って、その思っていることをはっきり言わせるように助力すること。

 

 ・道徳的態度を示さないこと。

 

 ・自分の感情を差しはさまないこと。

 

 ・自分の理解程度をためし、同時に時折使用人の見解を要約して、更に次の発言を促すこと。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

  すべてこのような会見での雇主の努力は、使用人に自分の問題を残りなく打ち明けさせ、その困難を理解してやり、そして解決を見いだす助けになってやることでなければなりません。

 

  このような会見が、使用人側に新しい目覚めと増大した精力を与える結果となるとすれば、費やされた貴重な時間は決して浪費とはならないでしょう。

雇主は個人の問題が労働者の能率に影響することが少なくないという事実を無視すべきではありません。

これらの問題は、家庭における病人のことから、同僚との不和に至るまでの、具体的な悩みから生じることもありましょう。あるいはまた、それは何か深く根をおろした個人的な苦労であるかもしれません。

 

賞賛と非難とは、雇主たる者の職権として、雇主にのみ通じている意思伝達の2つの通路であります。

これらの通路を人格に対してではなく、仕事の遂行に関連して、積極的にかつ建設的に用いるならば、対使用人関係をいっそう良くすることができます。

非難というものは、いかに非個人的であっても、それを受ける人が欠点を克服する能力に確信を持たない限り、意気を銷沈させるかもしれません。

 

そこで多くの雇主は、【サンドウィッチ式非難】の方式を好んで採用しています。

すなわち、使用人が実際に成し遂げていることに対して2つ賞賛を与え、その間に改めてほしいか、あるいは改めるべき事柄についての非難をはさむものです。

非難を非個人的にするには、完全秘密が是非とも必要であります。なぜなら、衆人の環視はその結果自らをあわれむ気持を起こさせるからであります。

 

 その上、起こった失敗に対する非難の大半を気前よく背負ってやる雇主は、単に当の従業員に恥をかかせないばかりでなく、事業の一般士気に害を与え、その上に伝染もしやすい習慣である“責任の転嫁”の傾向をも阻止します。

 

 使用人の感情に余り思いやりをかけると雇主の権威や威厳がなくなる恐れがあるということが時々言われますが、これには何かしっかりした理由があるでしょうか? 

もちろんそんなものはありません。それは使用人を「甘やかす」ことには決してならないことは、顧客の感情や苦情に同様の心遣いをしても、顧客を甘やかすことにはならないのと、全く同じであります。

仮に、あなたが仕事台や売場で働いているとしたら、

[こんな風に遇して欲しいと願うような扱い方を、あなたの使用人に対して与えることを]、

同じ『黄金律』が命じているのです。

 

 苦情の一つ一つは皆、根本的な関係改善の機会を提供するものであります。違反された規則は説明を加える必要があるのかもしれません。

あるいはまた、そのような規則は本当に必要なものではないのだということが判明するかもしれません。

無用の制限の撤廃は使用人の士気を高めるのに役立つこと、そして労働者仲間の自律や、お互い同士の訓練が規則と同様に効果があるということを、雇傭者は常に体験しております。

タイム・クロックを廃止し、従業員に好きな時に喫煙、中食、休憩を自由に取ることを許したある工場は、生産増加という報いを得ました。

労働者の中にこれらの特権を濫用する者があれば、その仲間がその行為を激しく責めたてました。“名誉心に訴える制度”は、不愉快な監督の重荷を使用人自身の上に置きかえたのです。 

 

 意思疎通のもう一つの重要な手段は、“新しい考え”や“示唆”の奨励であります。

ある労働指導者はこの手段の必要性について激しい発言をしています。

「可能生産量の極限に近づいた工場は未だかって無い。そして、諸君一人一人の力を借りずしては、今後も決して無いであろう。諸君は、経営者が見つけることのできないものを見つけることができるのだ。

すなわち、諸君は小さな無駄を見つけることができる。ところが、この小さな無駄は、積もり積もって巨大な恐るべき無駄になるのだ。

経営者はそれを防ぎ得ない。しかし諸君にはそれができるのだ。」

 

 自分の“提案”が歓迎され、入念に研究され、そして相当に報いられることを――あるいは、少なくとも認めてもらえることを――知っていれば、恐らく彼はその仕事に対していっそう注意深い態度を取るでありましょう。

 

 ある鉄道会社では《新構想には際限が無い》という標語を普及させました。その会社の広告の中で、従業員の貴重な示唆に対して会社が支払った莫大な金額を誇示しています。

仮にこれらの新構想の中4分の3が使いものにならなかったとしても、採用されたものだけで、【提案制度】を実施するために要する煩わしさを償って余りあります。――ただし、不採用ときまったものについては、提案者にその理由を知らせることが必要であります。

 

――この制度の結果、使用人が全般的に鋭敏になることと、

[自分も参加しているのだ]と言う意識ができることとの、2つの副産物の価値は計り知れないものがあります。どんな小さな事業でも、使用人が、公正でかつ有効であることを知っている一つの制度の恩恵を、規模が小さいゆえに受け得ないはずはありません。

 

 この意思疎通手段の拡大法が、あるロータリアンによって紹介されましたが、彼はこれを【複式経営】と名づけています。

彼の店においては、使用人が交替で委員になる委員会が能率改善に対する提案を審議しますが、それについては、全員が賛成した提案でなければ採択しないという、たった一つの規約があるだけです。

この委員会が採択した提案はほとんどもれなく直ちに実施され、そして有利な結果をもたらしました。その上、どんな代価を払っても買うことのできない一つの精神がこの店じゅうにしみわたりました。一人の使用人はこんな言い方をしました。

「私は他人の金で自分の事業をやっているような気がする。」

 

 現在の多くの不満や不安の原因は、経営の機能を奪い取ろうとする使用人側の野望ではなくて、このような“意思疎通の欠如”にあるのではありますまいか。

 

 この種の無知を除く手段はほかにもたくさんあります。

ある会社では、その経営状態を簡単なグラフにした説明書を従業員の給料袋の中に同封しています。

また、他の会社では、このような説明を、従業員やその家族に配布する会社機関誌の一般記事の欄に載せております。

小さな事業ならば、雇主と従業員との会合の席上でこの種の情報を与えるのが一番良い方法でしょう。

 

 このような会合は、世界中多くの所で従業員の代表者が事業上のいろいろの問題や事業の発展について話し合う為に招かれる『労働会議』として、永久に結成されています。

 

 全従業員に労働会議の仕事に関するはっきりした全貌を知らせるため、ロータリアンたちは、その会議の議事録を公表することを勧めております。

ある会社で、「その業績」という表題のもとに発行した一小冊子では、生産に関する最上級の構想、計画的欠勤の減少、および工場における友情的雰囲気の醸成等を、この労働会議の業績として挙げています。

 

 能率増進に対する貴重な提案を豊富に生み出すほかに、労働会議はまたしばしば従業員の一般福祉と健康、貯蓄や共済基金、安全の増進、あるいは娯楽および教育の企画等にも関与します。

 

何よりもこの『労働会議』は、自分も“チームの一員”なのだという自覚を与えることによって、各労働者に責任感と自尊心を持たせることに貢献しています。

 従業員との会合はまた、職業奉仕の理想を伝達するに最もよい雰囲気を提供します。

 

この良き理想は“共に分かち合う”べきものであります。

もしもロータリアンがロータリーを一つの私的信条として自分だけで独り占めにしているとすれば、その人は社会に奉仕する自分の機会の多くを逃がすことになります。

事業上の毎日の出来事は「彼らもまた奉仕する」という自覚をその同僚たちに呼び起こすために好適の事例を提供してくれます。

なぜ彼が毎週ロータリー例会に出席するか、何を彼はそこで得ているか、そしてそれがどのように彼らに影響するかということを知ることは、彼らの興味をひくでありましょう。

人間関係をきずくかけ橋としてその奉仕の経験を雇主自身が説明するにまさるものはありません。そして、この行路の同伴者となるように誘われることは、どんなにか従業員の胸を躍らせることでしょう。

 

 「彼らもまた奉仕する。」ロータリーが事業にもたらさんとするねらいを豊富にかつ深く受け入れようとする従業員の熱意はいろいろと例証されております。